
1900−2050年版が実業之日本社からでます。税込み価格27,000円の大変立派な暦書です。私は暦計算担当。
毎日の星の運行が記されているので、いちいち補間計算する必要がない設計。アスペクトやムーンボイド、月齢もわかります。詳しくはアマゾンで見ていただくとして……、西洋占星術のお供にぜひどうぞ。
この本、ずいぶん前に脱稿していたのですが、出版がのびのびになっていました。このたび景気回復の影響か出版の運びとなりました。もうすぐ書店にならびます。
これまで天体位置計算の勉強と、計算プログラムの作成に費やした時間はほんと膨大で、この本はそういう努力の集大成ということになる。最初は借り物の知識。それを自分のものに変えていくプロセスはとても長くかかった。この機会を与えていただいた実業之日本社の編集者さんと松村潔さんに感謝です。
でもってさらっと天体位置計算の勉強してきたことを振り返ると……、とにもかくにもムカツクことが多かった(笑)。あまりにもマイナーな分野で、それでいて必要不可欠なものでもあって、それでいてお金になりにくい分野なので、報われない怨念が溜まっているんじゃないかと思えるほどで。でもまあその気持ちはよくわかる。勉強していくにつれて、数少ない先達が歩んだ道が細々と続いているのが見えて、その人々の苦労は足跡を見ればわかる。みんなどこに行ったんだろう……。
天体位置計算の知識はまさに人類の叡智の部類だと思う。星は叡智の象徴。そして星の世界は冷たくていじわるで厳しい。簡単に秘密は開示してくれない。もう私のヒットポイントはゼロだったりする。でもちょっと回復したかな。
こういう分野の本というのは、だいたいは数学書みたいになるんだけど、計算量がはんぱないので、だれもがコンピュータで計算しようとする。だからプログラム言語で書かれた計算プログラムの本も何冊か出版されている。ネット上にもソースが転がっていたりする。私は数学はあまり得意じゃないのだけど、コンピュータ言語は読めるのでそれを読んで勉強した。数式で書かれるとわからないことでも、コンピュータ言語で書かれていることはわかる。ん?ようは言葉の表現の違いってだけじゃん。ある言語を知らぬ者は、その言語で書かれた知識を知る資格はないのか。そんなことはあるまい。
『「天体の位置計算」長沢工/著』という本がある。日本語で書かれたものの中では、この本くらいしか「わかりやすく中身の充実した入門書」と呼べるような本はない。いまだに無い。もう十数版も重ねているロングセラー。長沢氏いわく「もうこの本は中身が古いから再版しないでくれ」と編集者に言ったそうだが、かわりのものがないからと再版されつづけている。私も十年以上読み込んでいる。やっとこさ最近板についてきた感じだなんだけど、十年以上ねぶることができる本なんてそう多くはない。こういう分野に興味のある方にはオススメしたい本だったりする。イバラの道がはじまるかもしれないけど(笑)。
天体位置計算はその昔は海洋航海に大切なもので、海上保安庁が計算技術をもっているとか、今でも自衛隊の潜水艦には天測航法のための同庁発行の天測暦を常備しているとか(たとえば核戦争で国家が消滅し、GPS衛星がミサイルで破壊されても、それでも任務を遂行する必要があるから)、第二次大戦のときアメリカから輸入していた天測暦が輸入できなくなって、戦艦の航海に問題が起きて、はじめて日本独自の計算に着手したとか。いざというときにこの計算技術がなれば、困ったことになるという性質がある。買ったほうが安くてもそれじゃだめなものってある。ロケット技術とかね。車輪の再発明でもそうしなきゃならないものってある。天体位置計算も昔はそういうものだったらしい。
今となってはGPSがあるから、天測航法なんて使われていない。船乗りになる専門学校で実習でやってもその後は使われないらしい。
私は東京から横浜に移り住んで、ずっと天体位置計算の勉強してたんだけど、横浜って当たり前ながら海の航海と縁の深い場所なんだよね。港にいくとタロットの星のマーク(八芒星)をつけた海上保安庁の船も停泊していたりする。そういえば初心のころ海上保安庁水路部暦課(今はもう名前が変わっている)のお世話になりました。深く感謝しています。
編集者の方によると、「紙媒体の本としてはおそらく最後のものになるだろう」とのこと。けれども私は紙の本が好きだ。触知できる紙の本が好きだ。本に線を引いたり、書き込みしたりして、よごしまくって読むのが好きだ。
図書館でたくさんの人によまれて、紙が適度にやわらかくなって手になじむ本がすきだ。ボロボロになっている本も好きだ。その本の歴史が伝わってくるからだ。私は紙の本が大好きだ。
なんかまとまりのない文章になったけど、思いつくことをつらつら書いてみた。